学術図書・藤尾慎一郎「<新>弥生時代 500年速かった水田稲作」


吉川弘文館、歴史文化ライブラリー、2011年10月第一刷。10年前の本。

炭素14年代測定法によって約550年遡った新しい弥生時代における日本列島像を描いた本。

筆者が2001年頃から採用し始めてから約10年間の歴博論文などから以下の点を集大成したもの。

 

地域別の水田稲作の伝搬やその伝搬の違いなど、日本列島像の弥生時代像を丁寧に解説している点が役立つ。

確かに、弥生時代の開始が約500年強遡ると、従来の定説を覆すだけの論拠がなくてはいけない。そのあたりを筆者への指摘点への考え方も織り交ぜて、解説している。

 

【目次】

プロローグ 第二次炭素14年代革命[1][2]

第1章 新しい弥生の世界へ

1-1 新しい年代観が変えるもの

・土器形式の存続幅が変わる

・東アジアの国際情勢が変わる

・弥生開始期に鉄器がなくなる

・水田稲作の広がる速度が遅くなる

・ムラの景観が変わる

・弥生文化の輪郭が変わる

1-2 方法論の行き違い

1-3 前10世紀に水田稲作を伝えたのは誰か

第2章 鉄器のない水田稲作の時代

2-1 前三世紀にはじまった「イネと鉄」の弥生文化

2-2 前五~前四世紀にさかのぼった弥生の鉄

2-3 前10世紀に始まった弥生文化の鉄の歴史[3]

第3章 なかなか広まらなかった水田稲作

3-1 水田稲作を最初から始めた地域で何が起こったのか[4]

3-2 水田稲作を受け入れた地域で何か起こったのか[5][6]

第4章 変わる弥生村のイメージー弥生集落論の見直し

4-1 弥生村の規模と構造の求め方

4-2 これまでの弥生村とこれからの弥生村[7]

4-3 ムラの人口の推定[8]

第5章 弥生文化の輪郭ー前三~前二世紀における日本列島内の諸文化ー

5-1 弥生文化と同じ時期の諸文化

5-2 「中の文化」の見直しと弥生文化

5-3 弥生文化の輪郭

エピローグ 「イネと鉄」から「イネと石」の弥生文化へ

 

[1] 藤尾慎一郎, 今村峯雄, 西本豊弘, 「弥生時代の開始年代--AMS-炭素14年代測定による高精度年代体系の構築」, 総研大文化科学研究, no. 1, pp. 69–96, (2005年).
[2] 坂本稔, 「弥生時代の開始年代-AMS-14C法のはたす役割」, 真空, vol. 50, no. 7, pp. 494–497, (2007年).
[3] 藤尾慎一郎, 「弥生鉄史観の見直し」, 国立歴史民俗博物館研究報告, vol. 185, pp. 155–182, (2014年).
[4] 藤尾慎一郎, 「生業からみた縄文から弥生」, 国立歴史民俗博物館研究報告, no. 48, pp. p1-66, (1993年).
[5] 小林謙一, 春成秀爾, 坂本稔, 秋山浩三, 「河内地域における弥生前期の炭素14年代測定研究」, 国立歴史民俗博物館研究報告, vol. 139, pp. 17–51, (2008年).
[6] 藤尾慎一郎, 「弥生開始期の集団関係--古河内潟沿岸の場合 (古代における生産と権力とイデオロギー) -- (古代接触領域の研究)」, 国立歴史民俗博物館研究報告, vol. 152, pp. 373-400[含 英語文要旨], (2009年).
[7] 藤尾慎一郎, 今村峯雄, 「弥生時代中期の実年代--長崎県原の辻遺跡出土資料を中心に」, 国立歴史民俗博物館研究報告, vol. 133, pp. 199–229, (2006年).
[8] 藤尾慎一郎, 「較正年代を用いた弥生集落論 (縄文・弥生集落遺跡の集成的研究) -- (弥生時代の集落論)」, 国立歴史民俗博物館研究報告, vol. 149, pp. 135–161, (2009年).