学術図書・藤尾慎一郎「日本の先史時代:旧石器・縄文・弥生・古墳時代を読みなおす」


初出:2021年9月中央公論新社。久々に朝日新聞の毎週土曜日の図書記事で紹介されていた本を購入。ちょうど、同著者が2011年に吉川弘文館から発行した「<新>弥生時代」を読み終えたこともあり、10年ぶりの新説をゲットすることを目的に読んでみた。

 

この十年で歴博が提唱した新弥生時代をを中心に、旧石器時代からの地球環境を含めて、各時代の遷移を中心に書かれた本である。これまで数多く読んできた先史時代・古代時代の関係本を大局的に整理整頓するのに役立つ本となった。

 

特に、本書は、その時代ごとの解説ではなく、旧石器時代から縄文時代、縄文時代から弥生時代、弥生時代から古墳時代への移り変わりに関する考察がメインとなっている。また、序章では、考古学者がどのように旧石器時代・縄文時代・縄文時代・弥生時代・古墳時代を決めて、時代を分けているのかという時代区分の方法の解説が書かれており、序章から最後まで抵抗感なく読めた。

 

いつものように、今後の索引に役立つように、目次を列挙しておく。

 


の前に、今後の予備知識として本書の序章で解説されている「時代とは何か」の中から2点をメモ書きを残しておく。

 

①文献史から見た時代区分

 

歴史の「史」とは、文字で記された歴史を意味する。

 

そこから「歴史時代」とは、文書が存在する時代のことをいう。となると、日本で最も古く確実とされている文書は、8世紀に編まれた「古事記」と「日本書紀」である。従って、従来の文献史の世界では、飛鳥時代以前に歴史がないことになってしまう!

 

一方、文献史でいう「原史時代」と「先史時代」の定義は、以下となる。

  • 原史(原始ではない)時代:その時代に文献や伝承が部分的には存在するが、それだけではその時代を十分に説明できない時代を指す。古墳時代や弥生時代後半も、硯が出土したり、甕棺に文字と思われる記号が刻まれていたりすることから一部が「原始時代」に該当
  • 先史時代:(狭義には)文字資料が全く無い時代のことを指す

最近では、狭義の先史時代と原史時代を合わせて「先史時代」と呼ばれている。

本書もこのスタンスであり、旧石器時代、縄文時代、弥生時代、古墳時代までを「先史時代」として扱っている。

 

なので、当面は歴史の時代区分としては、飛鳥時代以前を先史時代、以降を飛鳥時代などの表現を用いることにしよう!

 

②「時代」に相当する用語である「Age/Era/Period」の「違いと使い分け」

 

日本語の「時代」は何にでも使える言葉であるが、英語では3つの設定で使い分けられる。

  • Age:ある大きな特色、もしくは権力者(統治機構)に代表される時代
  • Era:根本的な変化や重要な事件などで特徴づけられる時代
  • Period:長短に関係なく期間を示す

例えば、

江戸時代や令和:Edo Age、Reiwa Age

旧石器時代:Paleolithic Era、もしくは Paleolithic Period

 

Eraを使う場合、「根本的な変化や重要な事件」とは何なのか?

例えば、先史時代であれば、土器の出現、水田稲作のはじまり、定型化した前方後円墳の成立という、考古学的な証拠がそれにあたる。


と言うことで、目次を列挙しておこう!

 

序章 先史の時代区分ー考古学ではこう考えるー

序章1 時代とは何かーAge/Era/Period

序章2 時代のはじまりー出現か定着か

序章3 時代はいかに変化するかー移行期から考える

第1章 土器の定着、人びとの定住ー旧石器時代から縄文時代へ

1-1 旧石器時代と気候変動ー最終氷期から後氷期へ

1-2 土器の定着ー指標①縄文土器

1-3 人びとの定住ー指標②竪穴住居

1-4 狩猟とまつりー指標③石鏃、土偶

1-5 各地で指標はいかに出現したかー北海道・九州・沖縄

1-6 縄文時代のはじまりー「縄文化」はいつ起こるか

第2章 農耕社会の成立ー縄文時代から弥生時代へ

2-1 弥生時代とは何かー画期をめぐる研究史

2-2 弥生式土器から水田稲作へー弥生時代の指標の変化

2-3 水田稲作はいかに始まったかー九州北部

2-4 アワ・キビ栽培から水田稲作へー中部・関東

2-5 農耕文化から続縄文文化へー東北北部

2-6 弥生時代のはじまりー農耕社会に至る軌跡

第3章 変化する社会と祭祀ー弥生時代から古墳時代へ

3-1 流動化する人びとー気候変動の影響

3-2 「都市」の出現ー纏向遺跡、比恵・那珂遺跡

3-3 博多湾交易の成立ー新たな対外交易機構

3-4 「古墳」とは何かー成立をめぐる議論

3-5 前方後円墳の誕生ー指標①墓制

3-6 中国の多面副葬ー指標②鏡

3-7 武器ではなく、祭祀の道具としてー指標③鉄剣・鉄刀、青銅器

3-8 土器の変遷ー指標④土師器(はじき)

3-9 古墳時代のはじまりー四つの画期

終章 先史時代を生きた人びとの文化ー列島各地の暮らし

終章1 中の文化ーアニミズムと穀霊

終章2 北の文化ー「続縄文」の暮らし

終章3 南の文化ー九州・大陸との交流

終章4 先史時代の装束ー衣服・アクセサリー・入れ墨