黒岩重吾「白鳥の王子ヤマトタケル 大和の巻」


初出1989年5月~1990年10月(野生時代に連載)・1990年11月(単行本)、文庫本2000年8月初版(角川文庫)。32年前の本。

 

「大和の巻」は、白鳥の王子ヤマトタケルは6冊から構成されているうちの第1巻である。熊襲征討に行くまでの、景行大王、双子の兄・大碓王子との確執などを描いている。これまで記紀で紹介されているヤマトタケルのイメージとは全く異なる物語だ。正直、黒岩が説いているように、ヤマトタケルの伝説は三輪山の山麓の纏向に興った大和王朝が西や東に勢力を拡大してゆく「史実に近い伝承」として前提を置くと、こういう解釈になるのかと感動した。非常に面白い!

本書にある関係系図を引用させてもらうと、ヤマトタケルになる前の倭男具那が主人公として登場する。

 

タケルの父・景行大王は多くの妃がいたようだが、その中で二人の皇后(稲日大郎姫が最初の皇后、死去後に八坂入姫が皇后)との間に二系統の王子達が生まれる。

 

設定では、景行大王は皇后・八坂入姫に頭が上がらないことや王位など望まず軍事将軍を目指す倭男具那などから、景行大王は男具那に嫌悪感を強くもつ。そもそも、どの大王時代でも勢力拡大のため政略結婚という名目で一夫多妻制をとることから、大王争いが起きている。人間関係はドロドロするし、皇后や妃は当然わが子を時期大王に即かせたくなる。

 

ヤマトタケルは、記紀などから聞かされている人物像によると、乱暴もので、景行大王から「朝餉に出てこない」兄に注意するようにと命令され、兄のところに行き八つ裂きにしてしまう。それを聞いた景行大王は怖くなり、熊襲征討、西国から帰還したタケルを直ぐに東征に向かわせる。つまり、乱暴ものであるが故に、父から冷遇を受ける。。。

 

しかし、本書はこの話をひっくり返して、父が兄の殺害命令を出し、兄を救い出すという話になっている。ネタバレしないようにこれ以上書かないが、一読の価値はある。32年前に読めばよかった!


男具那は自分の命が狙う刺客の裏にいる人間が兄・大碓王子と疑う。しかし、兄は景行大王の命令により大王の政略結構の相手である美濃・大根王の二人の娘を迎えに行っていることから、美濃まで追いかけるシーンがある。

 

その行路が上図の赤線。古代ながらのもので思わずグーグルアースで辿ってみた。

景行大王の纏向宮の外に住む男具那の4人は、馬で乃楽山(ナラヤマ)を超え、木津川沿いを八幡までゆく。そこで、宇治川を舟で遡り、瀬田経由で琵琶湖の東側にある野洲、安土を通り、矢吹山麓を流れる天野川に至る。そこから、不破を通過し揖斐川と長良川の間にある大根王の館に向かう。

 

もし、今でも宇治川を八幡から遡れるなら是非行きたいものだ。