黒岩重吾「闇の左大臣 石上朝臣麻呂」


2003年3月に亡くなった黒岩重吾の遺作。初出2001年7月~2003年5月小説すばる。文庫本2006年11月第一版集英社文庫。

 

物語は、665年(天智4年)から78歳で没する717年(養老元年)までの52年間にわたる。この期間は、下図のように天智、弘文(大友皇子、太政大臣)、天武、持統、文武、元明天皇に渡る期間であり、

天智4年小役人(冠位では十九階中十七位)であった石上麻呂が、上司である蘇我臣赤兄に呼ばれるところから始まり、やがて大友皇子の護衛長になる。壬申の乱で最後まで大友皇子に従い、最後は皇子の希望に応じ、遺体を大海人皇子に献じる。そのあたりから、徐々に官位をあげ、最後は元明女帝から左大臣にまで昇格してゆく。

 

藤原不比等と呼ばれる以前の田辺史時代も登場し、20歳近い年下の藤原不比等に仕えてゆく有様も、小説ではなく事実のような感じもする。

52年間というと半世紀になるので、上図のように、これまでの黒岩小説では「天の川の太陽」、「中大兄皇子伝」、「茜に燃ゆ 小説額田王」、「天翔る白日 小説大津皇子」、「天風の彩王 藤原不比等」を包含している。これらの小説にも、石上麻呂は登場している。最後の官位に至る背景や藤原不比等との関係などは、今回の「闇の左大臣」で一貫して書かれている。


現在、黒岩作品集の最後になる「弓削道鏡」を読む前に、飛鳥から奈良時代初期の天皇(女帝)系図を思い出すために永井路子「美貌の女帝」を再読している。